★★★ 追跡レポートをOA直前に封印したテレビディレクターの謎の行動

http://news.ameba.jp/cyzo/2010/12/93918.html
ukisima1209.jpg新宿駅西口で目撃証言探しの呼びかけを行う母
・尚美さん。事件時刻に合わせて行うため、帰り
は毎晩深夜になるという。

 これまで、私大職員の原田信助さんの自殺の背後に浮かび上がった、警察やJRによる非道で不可解な言動の数々をお伝えしてきた(【1】【2】)。さらにその不可解さは、信助さんの母・尚美さんを密着取材してきたテレビ局の動きにまで及んだ(【3】)。

 今年6月9日、尚美さんの携帯にかかってきた奇妙な電話。電話の主のである民放キー局AのIディレクターの声は、今までにないほど興奮し、取り乱していた。

「お母さん、大変です! 信助さんが他の女性のお腹をさわっているように見える別の映像が発見されました。新宿警察署で保管していますので見に行ってください。いまタクシーでそちらへ向かいますから!」

 尚美さんには電話の内容が理解できなかった。何より、前日に行なわれたある番組の屋外撮影が深夜までかかり、これが原因で風邪をひいて寝込んでいたため、「申し訳ないですが、後日にしていただけませんか」と頼む。「何言ってんですか! そんなこと言ってる場合じゃないんですよ! すぐ準備してください!」。返ってきたのはI氏の怒号だった。

 I氏の勢いに「何かとんでもないことが起こっているのかもしれない」と不安になった尚美さんは、風邪をおして起き上がり、指定場所のカラオケルームへと急いだ。着いてみると、そこにはI氏と、I氏が担当しているニュース番組のキャスターが所属しているプロダクションの幹部、そして尚美さんと同様に呼び出された顧問弁護士のH氏の3人がいた。そこでI氏が話しはじめた内容は、次のような信じ難いものだった。以下、尚美さんの証言からポイントをまとめる。

・信助さんが生前、事件とはまったく無関係の別の女性のお腹を、すれ違いざまに触っているかのように見える画像が数枚、このほど新宿駅の改札付近の防犯カメラの記録の中で発見された。

・その画像が新宿警察署にあり、副署長のU氏が管理している。

・これからすぐにそれを見に行ってほしい。

・この画像が事実であれば、(信助さんが女性のお腹をさわる性癖を持つ痴漢の常習者であった可能性があるため)ニコニコ動画やF局などで放送するのは止めたほうがいい。

・もし、これから新宿署に行かないというのなら、A局で放送予定の2つの番組(I氏のニュース番組と朝の情報番組『S』)は放送を中止する。

 いったいなぜ、民放テレビ局のディレクターが新宿警察署のU副署長のメッセンジャーを務めているのか、尚美さんがなぜ「それ」を見に行かなければならないのか、そして、なぜ見ないとA局が放送をとり止めるのか――尚美さんにはすべてが理解できなかった。

 信助さんの生前の画像ということは、少なくとも7カ月近く前の記録ということになる。肝心な事件現場のカメラの映像記録を、2カ月足らずでいとも簡単に「保存期限が過ぎたから消去」したはずのJR新宿駅が、別の改札付近の画像だけは半年以上も保管し続け、その膨大な画像の中から信助さんが映りこんでいた場面を数枚見つけたというのは、あまりに無理がある話ではないだろうか。

 尚美さんは、「意味はよく理解できませんが、皆さんは警察に頼まれてこういうことをしているのですか?」「なぜIさんが警察の代理として来られているのですか?」と何度も聞いたが、I氏もプロダクションの幹部もこの質問には無言のまま答えず、ただひたすらに「新宿警察署へ行ってほしい」と繰り返すだけだった。尚美さんが当時を回想する。

「私は、もし記録を見せていただけるのなら、以前からお願いしている事件現場のカメラ映像を見せていただきたいと、そして、もしそういう画像があるとおっしゃるのであれば、U副署長にどうか直接ご連絡いただきますようお伝えくださいと申し上げました。するとIさんは『では、うちでは放送できません』と答え、それで本当に放送が全部なくなりました」

 その日、Iディレクターとプロダクション幹部の2人は、尚美さんとの別れ際にこう謝罪したと言う。「申し訳ありません、我々も組織の人間なので、上からダメだといわれたら放送できないんです」。ここで言う「上から」が何を指すかの説明は最後までなかったが、I氏の言葉通りに捉えれば、なんらかの圧力で番組にストップがかかったと推測できる。舌鋒鋭く世相を切り続ける、I氏が手がけるニュース番組のキャスターは、はたしてこの一連の経過を知っているのか、いないのか。

 尚美さんが当時を振り返る。

「仮にこの日に新宿警察署へ行ったとしても、A局が放送しないことはすでに決まっていたのではないかと思います。私に写真を見せることで息子が痴漢常習者だったと納得させたかったのか、その様子をIさんが撮影しようとしたのか、意味するものが何なのか今もってよく分かりません」

 それにしても、警察の圧力に屈してテレビ局が放送をとり止めるということが、現実にあり得るのだろうか。「その可能性は限りなく低い」と言うのは、元公安捜査官の北芝健氏だ。「あくまで一般論」という前提のもと、北芝氏は警察とメディアの関係性は次のように解説する。

「警察がテレビ局の放送を組織的に止める力はないんです。各局が上層部に東大卒のキャリアを配置している理由は政治力です。日本はなんだかんだいっても東大キャリアが仕切っている国。警察がメディアの動きを止めたくても都道府県警レベルでは無理で、仮にあるとすれば警察庁のトップクラスですが、そうなると互いに東大キャリアの同級生クラス同士でのやり合いになるのでケンカにならない。番組を潰すほどの優位性は警察機構にはないんです。今回、放送がなくなった理由は分かりませんが、下請けの制作会社と親会社のテレビ局との間でなんらかのトラブルが発生したか、もしくは取材の過程で局にとって不都合な事実が発覚したという可能性は考えられます。そういう理由で突然中止になった番組は過去に数限りなくあります。むしろ制作会社とすれば、『権力に潰された』と思わせたほうが言い訳になりますからね」

 一方、他の民放局のある関係者は「可能性はゼロとは言えない」として次のように推測する。

「たしかに組織レベルで潰すことは難しいが、対個人の次元なら、ないとは言い切れない。普段から警察組織を取材していれば、よくも悪くも人間的なつながりができる。バーターを持ちかけられて『次に××するから今回はなんとかしてくれ』と頼まれて、断われない状況がないとは言いきれない。ただ、番組を潰す権限は制作会社にはないので、局の幹部との個人的な人間関係か、あるいはその人間が警察に弱みを握られていたとか、理由はいくつか考えられる。今回は担当ディレクターが副署長の名前を出してゴリ押ししたというのだから、いずれにしても双方で連絡を取り合っていた可能性は高そうですね」

 今回、A局の動きがこれに相当するのか、I氏が言う「上から」が単なる「言い訳」なのかは分からない。いずれにしても、在京キー局である「A局」という大手テレビ局が、同じ事件を取材した2つの番組を放送寸前になって取り止めたことは事実だ。また、仮に局内に限定したトラブルであれば、IディレクターがU副署長と組んで偽の画像を見せてまで、他社のF局やネット放送までを差し止めようと画策した理由も判然としない。尚美さんはこの件で、8月11日付け警視総監及び新宿警察署あての公開文書の中で、次のように質問している。

「新宿警察署の担当者は、息子・信助が疑わしい行動をしているという防犯カメラの画像を見るようにと●●●●●(A局の名前)のディレクター●●氏(I氏の実名)を経由して私に打診してきたのはどのような理由からでしょうか。なぜ直接打診してこなかったのですか」

motoki1209_02.jpg新宿警察署からの回答書。

 これに対する警察側の回答は、「当職員がテレビ局のディレクターを経由して、貴殿に防犯カメラの画像を見るように打診した事実はありません」(9月11日付け回答より)という極めて短いもので、問題の画像の有無については一切触れられていなかった。

 一方、今回の事件の温床を、「痴漢関連の事件を取り扱う警察の捜査方法が根本的な問題」というのは、都内で同類案件を多く取り扱っているある法律事務所の弁護士だ。

「痴漢と言うと一般的に迷惑防止条例で処理してしまいますが、本来は刑法だけで取り扱うべきだと、個人的には感じています。酒で酩酊させたり薬で昏睡させたりして相手の性器等を触るなどという、"抵抗しがたい状況での破廉恥好意"は準強制猥褻罪(178条)となり、『6カ月以上7年以下の懲役に処する』と刑法に定められている。ところが、一般に痴漢行為については、下着の上から触れば条例違反、下着に手を突っ込めば刑法違反という原則がほぼ確立してしまっています。下着の上からとか下からとかでなく、どんな痴漢行為も全部この条文で処理されるべきです。現状では安直に条例を適用させて、信用性が担保できない"被害者"証言だけを頼りに、科学的な捜査もしないで逮捕してしまう。その慣習を改めない限り、痴漢冤罪はなくなることはないでしょう」

 また、別の弁護士も次のように言う。

迷惑防止条例違反は被疑者国選対象事件にならないんです。つまり、起訴までの間、最高で20日間以上もの期間、国選弁護人が付きません。弁護士の援助を得られないまま被疑者が警察に追い詰められてしまい、精神的に疲弊したところで『認めれば罰金だけ払って帰してやるぞ』と言われ、してもいない痴漢を認めてしまう例も少なくないんです」

 今回の信助さんの事件は、多くの証言から、酔った学生グループの身勝手な暴行が発端となっている可能性が高く、一般の痴漢冤罪とは内容が異なる事案かもしれない。しかし、いずれにしても新宿警察署が、確かな証拠の積み重ねで事件の解決を目指していたならば、今回のような悲劇は起こらなかったとも考えられる。

 季節は晩秋を過ぎ、冬を迎えた。昨年の12月10日起こった悲劇から、早くも一年が経とうとしている。尚美さんは今日も新宿駅に行き、チラシを配りながらあらたな目撃証言を探している。(了)

(取材・文=浮島さとし)

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テレビ局の裏側



報道という名の蛮行。



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