★★★ 家族のありようを言葉少なに描いた大人の映画「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」

http://news.ameba.jp/mhollywood/2010/12/92881.html

「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」
(C)2010シグロ/バップ/ビターズ・エンド


「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」
(C)2010シグロ/バップ/ビターズ・エンド


酔いがさめたら、うちに帰ろう。」は、大人の映画である。



それは紋切り型のキャッチコピーなんかではなくて、本当に、そうなのだ。



【関連写真】「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」フォトギャラリー



戦場カメラマンの塚原安行(浅野忠信)は、重度のアルコール依存症である。妻で人気漫画化の園田由紀(永作博美)とはそれが理由で離婚しているが、今でも吐血したり入院したりするたびに世話になる日々を送っていた。そんなある日、10回目の吐血により入院することになった塚原は、由紀の勧めにより嫌々ながらもアルコール病棟に入ることを決意する。そこで出会う風変わりな入院患者や個性的な医者とのふれあいを通して、次第に回復に向かっていく塚原。だが、思いもよらぬ運命が彼を待ち受けていた――。



アルコール依存症という病気は、れっきとした病気ではあるものの、世間からの風当たりが非常に強い。お酒との付き合い方すらコントロールできないダメな大人として、白い目で見られるからだ。本作の塚原はまさにそうした世間のイメージ通りの人間で、断酒を決意してもすぐに飲んでしまう。「もう絶対飲まない」が「ビールくらい大丈夫だろう」になり、さらに「もう飲んじゃったから何飲んでも一緒だわ」になり、結局酔いつぶれ、気を失い、病院に担ぎ込まれてしまう。その繰り返しである。



身内のアルコール依存症に悩まされている人は多いと思うが、本作で塚原を演じた浅野は、そうしたアル中患者の弱さ、醜さ、そしてやるせなさを、リアリティあふれる演技で観客にこれでもかと突きつけてくる。同じような体験をした者ならば(当人でも家族側でも)、思わず顔をしかめてしまうような場面がいくつも出てくるだろう。


しかし、本作はそうした痛々しくてどうしようもない現実を描きながらも、それでもなおネガティブな方向に進むことはない。塚原の妻である由紀は、離婚した身でありながらも、彼が倒れ入院するたびに駆けつけて世話を焼く。二人の子どもたちも塚原を慕っており、温かい家族の思いが、どうしようもなかった男を次第に救っていく。その過程が、言葉少なに淡々と描かれる。



それは単なるきれい事ではなく、怒りや絶望、悲しみといったあらゆるネガティブな感情を乗り越えた先にある、一つの家族のあり方なのだ。



しかし、その大部分は直接語られることはなく、観客は行間から彼らの気持ちを読み取るしかない。それには、ある程度の人生経験か、もしくはかなりレベルの高い想像力が要求される。正直言って、僕ごときの若輩者では彼らに共感できない部分が多々あるし、今後その境地に至れるのかというと、それも甚だ疑問ではある。しかし、少なくとも彼らのような家族の形があるということは、共感はできないまでも理解はできたし、ひょっとすると10年後に見るとまた違う思いを抱くのかもしれないとは思えるレベルの映画であった。



どうしようもないアル中患者を家族に持ったとき、あなたはどうするのか?



由紀や子どもの立場に自分を重ねつつ、自問するつもりでご覧いただきたい。



(文:山田井ユウキ)



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